げんこつぱんだは左きき

音楽と野球と物語と考えたこと

夢の途中

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克己心

 

中学の時通っていた塾の砂壁に、先生の達筆な字が貼られていた

これが俺の人生のキーワード

 

小学校で野球を始めて、やりたかったピッチャーができなかった日

中学校で野球部に入ろうとしてグラブを忘れた日

高校のセレクションを受けるのを諦めた日

大学でお前のギターはいらないといわれたあの日

 

どんな時も己に克つと思ってやってきた

 

折れそうだった

一般企業に就職し、同級生がテレビで活躍するのを見る日々

腐らないこと

それは俺の意地だった

www.nikkansports.com

学生時代ソフトテニス部という俺と同じ経歴の独立リーガーには励まされた 

 

 

俺はピッチャーだが、投球練習はしない

生半可な覚悟ではマウンドに立つのは許されないのだ

 

とにかくピッチャーは足腰だ

有名なコーチも口を揃えて言う

 

走りこんだ

来る日も来る日も

継続は力なり、という格言がある

「心の瞳(め)」が開いて、打者の嫌なコースが自ずと見えるまで

 

でも29歳の今、まだその悟りの境地には達していない

でもいいじゃないか

見てる人は見てるんだよ

 

今までさんざん馬鹿にされた

「少年野球しかしてないのにメジャーリーグ?」

「ってかただの阪神ファンじゃないの?」

「バッティングセンターの100km/hの球も打てねーじゃん」

 

俺にとってそんな心ない言葉は小さなノイズにしかならない

仕事をしながらだって

野球全然したことなくたって

夢を追ったっていいじゃないか

 

今日も待った

ドラフト会議で俺の名前が呼ばれる瞬間を

仕事が手につかなかくてミスをした

 

育成を含めた123名の選手がコールされた

歓喜の顔をたくさん見た

その中に俺の顔はなかった

 

まただ

ふりだしだ

絶望には慣れっこだ

いや

ふりだしなんかじゃない

俺はもう来年30だ

潮時だ

野球に明け暮れる日々で出世も逃している

ここらで終わりにしよう

 

悲しかった、というより寂しかったんだ

だって小2で、テレビで天才打者坪井智哉を観て

野球を大好きになって22年

俺から野球を取ったら何にも残らない抜け殻だ

 

悔しかった

毎年毎年ドラフト会議で名前を呼ばれず

プロで活躍している同級生を心から妬ましく羨ましく思った

 

気付いたらいつものトレーニングウェアを着て駆け出していた

そう、いつものコースを

夢に向かって走りこんだいつものコースさ

 

もう身体は壊れてもいい

プロ野球選手じゃない自分なんて死んでしまえばいい

足がちぎれそうだった

公道を必死の顔で走る自分は滑稽だっただろう

 

イヤホンからシャッフルで流れるApple Music

聴こえてきたカーリーレイジェプセンがポップすぎて

やっぱついてねえなと自嘲の笑みをこぼす

次にスキップしたらホワイトストライプスのIcky Thump

イキッてサムズアップって感じか

上等じゃん

 

 

俺は速度を速めた

自転車のおばちゃんがぎょっとした顔で見る

でも関係ない

周りの目なんて関係ない

 

そうして完走し、家まで着くと

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夏場を乗り越えて今季最速のタイムだった

限界は俺自身が決めたことだった

超えられるんだまだまだ

年齢や経験を言い訳にしているのは自分自身だった

 

決めた

来年がラストだ

プロ野球なんて遠回りしない

メジャーだ

マイナーリーグでもいい

野手だっていい

 

がむしゃらにやってやる

それが俺のスタイルだ

 

こうして記事を書きながら得意じゃない生野菜をかじっている

体づくりをまた0から始めよう

来年のドラフト会議はもう始まっているのだから